活動報告

  • 人的資源調査
  • 2013年度活動報告

人的資源調査

  • 『くらしと知恵のヒアリング』高齢者聞き取り調査プロジェクト
  • 平成25年度上半期報告
  • (雄勝地区90歳ヒアリングより)

─東北工業大学くらしと知恵のヒアリング実施チーム─

1、はじめに

『くらしと知恵のヒアリング』高齢者聞き取り調査プロジェクトでは、雄勝地区の浜ごとに広がる浜文化とくらしの違い、人々に培われてきた「知恵・技・生業」にスポットをあて、調査を実施しています。本調査は、将来の雄勝地域の再生の為、持続可能な暮らしのヒントをもらうため、地域の豊かさや暮らしの知恵を紐解き、資源の可視化を図ることで、再生に必要な要素を見つけだし、新たな提案に結び付けるものです。

2、体制と手法

本活動の主メンバーである東北工業大学くらしと知恵のヒアリング実施チームと、研究協力で参加頂いている東北大学環境科学研究科 石田秀樹教授、古川柳蔵准教授らの合同チームにより、雄勝に暮らすお年寄りの方々のヒアリングを進めています。

2013年6月より本格的な聞き取りを開始しました。2013年9月末時点で9名のヒアリングを実施しました。(ここでは高齢者へのヒアリングの手法として、古川准教授が実践されている「90歳ヒアリング1)」を用いています。)

3、90歳ヒアリング実施

まずはおじいさん、おばあさんから知恵の拝借です(この先、多くの世代の方にもお話を伺って行きたいと思います)。9月まで、雄勝地区の、原地区、大浜地区、上雄勝地区、下雄勝地区、大須地区、水浜地区出身の9名の方にヒアリングを実施しました。上雄勝地区、下雄勝地区などは近年、明治以降はスレート産業の拠点として栄え、県内屈指の輸出品として雄勝石がありました(主に石版として輸出されました)。ヒアリングではその随所に「石」と「漁業」によるキーワードがあふれました。

雄勝という地域の産業には傾向があり、多くの人が石産業(スレートの掘り出し、切り出し、硯ほり、加工)に従事している地区や、漁業に特化した地区、海からは少し離れた山あいで畑作や林業に従事する地区、という構図が見えました。

その中でも共通して言えることはどこの浜や地区に暮らす人々も決まって主たる生業のほかに必ず畑を耕す暮らしをし、自分たちで食べる野菜は自分たちで栽培をしていたという事です。お話からは、「食に困った事は少ない、漁民でも畑を耕していた、雄勝は水が豊富に湧き出ているから水にも困らない、林業も奨励されて、共有で管理した、カツオやマグロの船が並び、活気があった」、などなど… 多彩な話があふれました。

また石産業についても、歴史長く、スレートや石盤が宮城の主要な輸出産業ともなった時代がありました。「明治の初め、石産業のにぎわいは大変なものだった、硯石の職人には遠くからも弟子入りに来たものだ」などなど。雄勝には多産業の要素があり、そのことが暮らしを支えてきた背景があるようでした。

4、ヒアリングから見えてくること

これらの話から、雄勝には「豊かさの要素」が数多く潜んでいることが感じられます。

食べ物や生業において、高齢者の方々は口々に豊かな雄勝の暮らしを語ってくれます。そこには自然との共存、暮らしの工夫や知恵があふれています。高齢者からのヒアリングは、90歳から70代までと幅は有りますが、皆、かつての雄勝のくらしを鮮明に記憶されており、そこからはチャレンジ精神あふれるたくましさ、豊かで、前向きな、「海の町・石の町」の顔が見えてくるのです。

これら過去の豊かさの要素から導き出された暮らしの形を、将来の雄勝の街づくりに、バランスよく、かつ現代の我々だから用いることができるテクノロジーを利用して、上手にデザインすることで、人々がこれからも暮らしやすく、持続可能な地域を作る方法が見えてくるのではないかと考えます。「どうやら、この町は、底力がありそうだ!」そんな思いが我々チームをわくわくさせています。

雄勝には縄文の時代から人々が暮らし続け、連綿と途絶える事無く、居住が営まれた地域です。この事は裏を返せば、「人が暮らすに適した住みよい場所」である事を意味します。災害は繰り返し襲ってきましたが、歴史の中で継続して居住が営まれ、決して人々が村や町を捨てなかった場所なのです。

今、そのような歴史を歩んできた雄勝地域から人が減り続けています。現代の私たちはその歴史に何を残せるのか…。何を将来につなげられるのか、課題は少なくありません。少なくとも、雄勝での暮らしが末永く営まれるには何が必要か、問われていることに間違いはありません。

5、おわりに

雄勝に必要な「産業とくらしの再生」は、そこに暮らす人々が、これからも末永く暮らしを継続させ、その場所で豊かに生きるために必要な絶対要素です。

我々は今、歴史に根ざした人々のくらしに光を当てる事で、3.11からの再生の答えとなる糸口の一つを見出し、新しい暮らしの形として雄勝の再生を探っています。豊かさを兼ね備えた自然と生業のバランスのとれた暮らし方を導きだし、未来へと雄勝を繋いでいきたいと思っております。

最後に、本活動の実施にあたり東北大学環境科学研究科石田秀樹教授、古川准教授、そして研究室スタッフの方々のご協力に心より感謝申し上げます。このヒアリングプロジェクトは、これからも多くの方にご協力をお願いする事になるかと思いますが、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。

次回は平成25年度の下半期報告を予定しています。

参考文献:90歳ヒアリング http://www.90solution.jp/

暮らしと知恵のヒアリング
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